山本 和英‎ > ‎

口頭発表の心得

もっと内容を減らしなさい

発表内容が多いほど記憶に残る量は減る、すなわち情報は少ないほど記憶されるので、最低限の内容をゆっくりやったほうが残る情報は多い。原稿の内容を縮小しただけでは観客は消化不良、つまり下痢になってどこかに消えていきます。

学会プレゼンは、映画コマーシャルのように内容に興味を持ってもらうための導入編だと思ったほうがうまくいく。細かい説明などどうでもいい。情報不足と感じても観客のほうから質問してくるか論文読んでもらえるから、プレゼンではお客さまに興味を持たせる努力だけをしなさい。コマーシャルで映画のあらすじ全部を語る必要はない。


発表順序など説明不要

もしもあなたの発表時間が10分~30分で、発表の内容が「研究背景」「手法の説明」「実験」「考察」「結論」の順だったら、これを発表冒頭で貴重な1分をかけて紹介するのはおやめなさい。10秒で紹介するのはなおさらおやめなさい。発表冒頭はみんなから最も注目されているのだから他に話すことがあるはず。

どうせ1分を使うのなら研究の背景をゆっくり説明したほうがわかりやすいし、あるいはその時間で最後に発表のまとめをやったほうがよほど有意義。ただし、発表順が特殊な場合や、長時間(1時間以上) の発表にはもちろん必要です。


7行1分の法則

読んでもらいたかったら、各スライドは7行以下にして1分以上置きなさい(これを7行1分の法則と名付けました)。発表を聞きながら文字を読めるスピードなんて限界があるんだから、5行なら全部読めても10行以上は全く読まない(最初から読む気がしない)。

スライドには要約を書いて口で補足するのに、スライドのほうが情報量が多かったら話にならない。スライドを1秒見せてすぐ切り替える人を見るが、あれは観客を馬鹿にしていると思いませんか? もしかして、私はたくさんスライドを書いたと自慢したいのか?


ポインタは使えばいいというものじゃない

スライドの1行目からポインタや指し棒をずーーーっと指し続ける人がいます。きっと使いたくて仕方がないのでしょうね。

スライドを読む側になってよく考えてください。視界を妨げ続ける指し棒、あなたの震えた手で指されたレーザーの点、冗談じゃありません。ポインタは図、表、写真のどこを見てほしいかを示す時、あるいは強調したい時に使うもの。そもそも文字だけのスライドで使う必要は通常ありません。邪魔です。全く使わないほうがはるかにまともです。


前を向いて話そう

みなさんに聞いてもらうのが目的なのに、世間に背を向けて、スクリーンに向かって話しかけて何してるの? スクリーンが見えにくい、声が通りにくい、表情が見えない(=情熱が伝わらない)の3重悪。もしも学校の先生が最後まで我々に背を向けて、黒板に向かってぶつぶつと話していたら、あなたは授業を聞きたくなりますか?


笑われてなんぼ

特に初心者は、笑われたらどうしよう、怒られたらどうしよう、と不安になるものです。学会発表で最悪なのは笑われることでも怒られることでもなく、会場の人に聞いてもらえないこと、つまり無視されることです。だから、はじめての学会発表ではうまくやろうなどとは最初から望まず、とにかく話を聞いてもらうことに全力を注ぎなさい。

あんたの研究、くだらないね、と言われれば最初はそれで合格です。それで十分だよ、だって話を聞いてもらえて、内容も理解してもらえて、さらに(つまらないという)コメントまでしてもらえたんだから。最初からさらにその上を目指すのなんて無理だよ。あなたが天才なら話は別だけど、残念ながらあなたは天才ではないよ。天才は最初からこのページなんか見ないから。


このページの初稿は 2001年12月17日に書きました。

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