小川 耀一朗‎ > ‎

日本語教育学会2019年度春季大会 聴講まとめ

日本語教育学会2019年度春季大会
日程:5月25日(土),26日(日)
場所:つくば国際会議場

自分の研究と関連する発表は少ないが,研究目的は日本語学習者・教師の支援なので,日本語教育の状況を知りたかったので聴講した.
日本語教育分野のことは詳しくないが,自分から見た発表内容や感想をまとめておく.

大会全体として,「日本在住外国人・留学生の増加に伴う日本語指導・支援の対応について」がメインテーマとして取り上げられ,多くの議論が行われた.
また,このメインテーマに沿うように,「アカデミック・ライティング」「やさしい日本語」「学習者支援アプリケーションの開発」に関する発表が特徴的だった.

日本在住外国人・留学生の増加に伴う日本語指導・支援の対応について
年々,日本に在住する外国人の人口が増え,国政である外国人受け入れ制度によりさらに人口が増えることが考えられる.
外国人の日本語習得の仕組みづくりと外国人教育を担う教員の養成が急務となっている.
日本語教育学会は,文部科学省の「外国人児童生徒等の教育を担う教員の養成・研修モデルプログラム開発事業」を受託し,様々な取り組みを行っている.

パネルセッション:多文化・多言語化する学校・社会における「ことばの教育」を担う人材の養成 —子どもの日本語教育人材に求められる資質・能力に焦点を合わせて— では,・愛知教育大学での日本語科目の必修化 ・外国人児童生徒教育者に求められる資質・能力 が議論された.愛知県は全国の中で日本語指導が必要な児童生徒数が最も多く,人手不足が問題となっているため,外国人指導が難しい現状の中,先行して日本語サポートボランティアなど様々な取り組みが行われている.また,教員に求められる8つの力が示され,教育方針の基盤づくりが進められている.
実際の教師は英語科目の増設などで手一杯であり,外国人対応する余裕がないとのこと.おそらく多くの教師が,外国人への対応をどうしていけば良いかわかっていない状況だと感じた.


アカデミック・ライティング
パネルセッション:大学における日本語ライティング教育の課題と可能性 では,大学で実際にどのようにアカデミック・ライティングを行ったかが発表された.wikipediaの記事を作成・投稿させる,基礎を教えてからライティングさせる,様々な学科を混合させて議論させるなど,教員によってやり方が様々であった.どのような授業をすれば良いかは各教員が試行錯誤しているように感じた.また,ライティングができるようになったことをどう評価すれば良いかが定まっていないこともわかった.教員は一人一人の作文を添削しなければいけないため,大変な作業であるというコメントがあった.wikipediaのように,ライティングの基準がはっきりしているツールがあると活用しやすいのではないかと思う.
ポスター32:読解基礎語彙チェッカーの開発 では,1万語を2000語,4000語,6000語,8000語,10000語の5つにレベル分けして定義した.少ない方から,学習者のレベルが初級から上級に上がっていく.これは主観的な分類ではなく,BCCWJの頻度とBCCWJのサブコーパスでの出現分布を用いて統計的にスコア付けして分類している(頻度は高いが特定のサブコーパスでしか頻度は高くない→重要度は低い).チェッカーを開発し,ライティングでの語彙レベルを確認できる.(http://yukari.overworks.jp/


やさしい日本語
「やさしい日本語」に関わる発表が多かった印象を受けた.
口頭6-1:大学・大学院のライティングにおけるパラフレーズと教育上の課題 では,学習者同士にことばの言い換えについて議論させ,どのような過程で言い換えが行われていくかを観測した.
ポスター2:外国人労働者の日本語能力に関する意識 では,外国人労働者は朝礼が聞き取れず作業内容を理解できないという悩みを抱えており,やさしい日本語研修を行ったらそれがグッと改善されたとのこと.
ポスター4:「やさしい日本語」と初級文法の接点 では,日本語学習者に理解してもらうためのやさしい日本語と初級文法を比較しており,その二つは一致するとは言えない.やさしい日本語では,これなら学習者でもわかるだろう,というフレーズが用いられる.
ポスター25:やさしい日本語を用いた介護専門語彙学習教材の開発 では,介護の専門用語618語に対して,「チュウ太のレベルチェッカー」のN3~N2レベルでのやさしい日本語を用いて説明を付けた.
口頭19:説明文の書き換えが日本語学習者の内容理解に与える影響 では,低頻度語(未知語)を高頻度語に書き換えることで学習者の日本語習熟度テストが向上したことを報告した.

これらの「やさしい日本語」というフレーズは,厳密な定義はなく曖昧な表現として用いられていた.
また,「やさしい日本語」は相手のレベルや環境に応じて文脈が変化するものだと感じた.
例えば,大学で日本語を学ぶ留学生や,介護を勉強している学生,日本の中小企業で働く外国人などが研究の対象となっていた.
ポスター25ではチュウ太のレベルチェッカーを使用したが,必ずしもやさしい単語のみで構成されてはいない.

一貫して日本語学習者にとって「やさしい日本語」を用いることが教育支援になることを主張していた.今後は更にこのテーマが重視されるのではないかと感じた.


学習者支援アプリケーションの開発
アプリケーションを開発したという発表が多くあった.
ポスター3:多文化共生サポートアプリ「SuMo Japan」の開発 では,日本に住む様々な外国人が,日本特有の単語や文化をアプリで質問投稿できる(yahoo知恵袋のように)アプリを開発した.きっと地域特有の悩みがあるはずで,アプリでその悩みを解消でき,また答える人はどんな悩みを抱えているのかを知ることができる.リリースしたばかりでユーザがまだいない.今後は地域特有のアプリ(SuMo 筑波 など)として広めていきたい.
ポスター6:地域語によるコミュニケーションを支援する聞き取り学習システムの開発 では,熊本弁の解説・学習アプリを開発した.これを使って熊本県に在住する外国人や,熊本県に転勤してきた日本人に熊本弁を知ってもらう活動を行っていく.
ポスター27:学習者の自律学習に繋がる音声指導 では,音声からアクセントを可視化するツールを用いて,学習者に母語話者のアクセントと比べてもらい,発音の学習をさせた.
ポスター29:拡張現実を取り入れた自助力育成のための防災学習活動改善の試み では,アプリで避難口などの情報を表示して防災についての理解を深めてもらう試みを行った.

これらは主に外国人をターゲットとしており,教育者の不足を補う意図も含まれているのではないかと思う.
これらのアプリは独自で開発しているが,自大学の他の学部・研究所が開発を担当している.
研究成果を他の開発部署に委託している形である.研究成果を発表するだけでなく,使える形としてリリースする流れがあるのではないかと思う.
(様々な学部がある大学が羨ましい)

 

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